Quantus FS (Field Solver) 最新機能のご紹介
要旨
- 一つのネットを指定すれば、周囲のネットとのカップリング容量を与えられた収束条件のもとでFS抽出することが可能
- FS実行後、Quantus Geometry Viewer(Quview)でレイアウトの断面構造を3Dで表示することが可能
はじめに
弊社のアナログ・カスタムIC設計環境Virtuoso®プラットフォーム上で起動されるサインオフレベルでの寄生素子抽出ツールであるCadence® Quantus™ Extraction Solutionにおいて3D Filed Solver手法を提供するQuantus FSに関して、今回は新しい機能をご紹介させて頂きます。
なお、2018年11月の本The Sound of Cadence OnlineのVolume 28(※1)では、大規模デザインに対応するMassively Parallel Quantus FSをご紹介させて頂いております。ぜひそちらも合わせてご参照ください。
(※1)https://www.cadence.com/ja_JP/home/soc/2018/oct/volume28.html
概要
まずは基本的なQuantus FSの機能に関して、ご説明させて頂きます。
Quantus FSはRandom Walkアルゴリズムで寄生容量を抽出します。その為、抽出結果は実行ごとに値が変わりますが、与えられた収束条件のもとで正規分布に従います。具体的にはQuants FSでは、容量値のばらつきの1σ(シグマ)を、与えられた収束条件内に抑え込むように抽出結果を得ています。
図1:Quantus FSの収束条件と100回の試行結果
図1は、Quantus FSの収束条件として、カップリング容量値が90fF以上の場合は1σが5%になるように、またカップリング容量値が1fF以上で90fF未満の場合は、1σが30aFになるように設定した上で、Quantus FSを100回実行して、Quantus FS実行対象のネット間のあるカップリング容量値を整理して、ヒストグラムとした結果になります。
この結果を見ると、カップリング容量値は凡そ8.89fFであり、その際の標準偏差は27.6aFである事が分かります。また、カップリング容量値が8.89fFの場合は、Quantus FS実行時の収束条件は、1σが30aFでした。従って、100回実行した標準偏差の27.6aFは、収束条件の1σが30aFよりも小さく、Quantus FS実行で得られたカップリング容量値の8.89fFは、所望する収束条件に従って得られていることになります。
次に、寄生容量抽出の2種類のエンジンに関して、ご説明させて頂きます。
ここまで説明したQuantus FSはRandom Walk Field Solverになりますが、Cadence® Quantus™ Extraction Solutionには、容量モデルをベースとする2.5Dのパターンマッチ手法をサポートするQuantusも提供しています。
Cadence® Quantus™ Extraction Solutionでは、設計上のクリティカルな信号に対しては、Quantus FS(3D)で高精度に寄生容量を抽出して、それ以外はQuantus (2.5D)で寄生容量を抽出するHybridな手法を実行することが可能です。
新規機能
① Quantus FS対象となるカップリング容量の指定方法の改善(その1)
昨年の9月にリリースされましたQuantus21.1.1のバージョンより、Quantus FSで抽出対象となるカップリングの組合せがより柔軟になり、ワイルドカードを適用する事が可能となりました。この新規機能によって、クリティカルなネットだけを指定し、その周囲のネットとのカップリング容量を全てQuantus FSで抽出することが可能です。
図2:Quantus FS対象となるカップリング容量の指定方法の改善(その1)図2に示しておりますように、新規にサポートされる
selection coupling A “?*”
というコマンドを適用し、クリティカルなネットAだけを指定する事で、その周囲のネットとのカップリング容量(C12, C16, C19, C21)を、全てQuantus FSで抽出することが可能です。この際に、カップリング容量値の収束条件として、
coupling_cap_convergence 0.5%
を指定することにより、Quantus FSで抽出されたカップリング容量値は、1σが0.5%で収束している結果となっております。
また、Hybridな容量抽出も可能で、全てのネットを抽出対象とした場合、Quantus FS(3D)対象のネットAを除くそれ以外のネットは、Quantus(2.5D)で寄生容量が抽出されます。② Quantus FS対象となるカップリング容量の指定方法の改善(その2)
次に図3に示しておりますように、新規にサポートされる
selection couplings_between_files ./signal_nets ./power_nets
というコマンドを適用することで、ネット間のカップリング容量に対して、異なる収束条件でQuantus FSを実行し、カップリング容量を得ることが可能です。
図3:Quantus FS対象となるカップリング容量の指定方法の改善(その2)図3の例では、従来の機能として、
selection nets_files ./signal_nets
で指定されるネットAとネットBに関しては、
total_cap_convergence 0.1%
coupling_cap_convergence 0.3%
という収束条件が指定されております。また、
selection nets_files ./power_nets
で指定されるVBBとVDDに関しては、
total_cap_convergence 1%
という収束条件が指定されております。
その上で、新規機能として、
selection couplings_between_files ./signal_nets ./power_nets
で指定されるカップリング容量のCC(ネットA-VBB)、CC(ネットA-VDD)、CC(ネットB-VBB)、CC(ネットB-VDD)に関しては、
coupling_cap_convergence 0.5%
という収束条件を指定することが可能になり、
最終的に、これらの異なる収束条件に従ってQuantus FSの結果を得る事が可能になりました。
これまでご紹介したQuantus FS対象となるカップリング容量の指定方法(その1)と(その2)は、Massively Parallel Quantus FSの実行に対しても同様に適用することが可能です。③ Quantus Geometry Viewer(Quview):レイアウトの断面構造を3Dで表示可能
昨年の3月にリリースされましたQuantus21.1.0より、Quantus Geometry Viewer(Quview)が提供されています。
図4:Quantus Geometry Viewer(Quview)図4がQuantus Geometry Viewer(Quview)で表示した例になります。QuviewはQuantus FS実行結果、あるいはQuantus実行結果を利用してレイアウトと断面構造を3Dで表示するツールです。主な特長は以下の通りです:
- レイヤー指定でジオメトリーを表示可能
- ネット指定でジオメトリーを表示可能
- 選択した箇所の水平方向の断面構造(X-Z)、または、垂直方向の断面構造(Y-Z)を表示可能
- 選択したレイアウト領域を3Dレンダリング表示可能
最後に
今回はQuantus FSの新規機能として、①カップリング容量の選択、②Quantus FS実行結果を利用したQuantus Geometry Viewer(Quview)をご紹介させて頂きました。これらの機能は何れもお客様のご要望を叶えるべく開発されたものです。また、Cadence® Quantus™ Extraction Solutionには今回ご紹介した機能以外にも様々な機能が御座います。今後もお客様のご要望を反映させて開発を進めてまいりますので、弊社の担当営業、担当エンジニアにご要望をお伝えいただけますようお願い申し上げます。
フィールドエンジニアリング&サービス本部
奥秋 勝己
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