シミュレータの進化による革命
最新の高速大容量SPICEシミュレータ 「Spectre X」
既存の高精度シミュレーション技術
Cadence® Spectre® Simulatorは25年の長期にわたり、業界標準として、アナログ設計を行われるお客様に信頼できる精度を提供してきました。また、10年前には、改善された数値エンジンとマルチコア・サーバーを使用した分散技術を搭載したSpectre Accelerated Parallel Simulator (APS)がリリースされ、シミュレーション時間の大幅な短縮に加え、これまで不可能だった大規模デザインに対する設計検証を実現できるようになりました。
新たなシミュレーションの課題
近年のアナログシミュレータが直面する課題は2つのエリアに分けられます。
1つ目の課題は、プロセスノードの進化によるシミュレーションコストの増大です。
非常に微細なアドバンスドノードプロセスでは、デバイス数が増えるだけではなく、デバイスモデルの複雑性から、シミュレータが扱わなければならない数値演算の量が増加します。また、FinFETなどの特殊な構造を持つデバイスでは、一つのデバイスが持つ寄生RCの素子数が増えることで、ポストレイアウトでのシミュレーションコストが増大します。
2つ目の課題は、益々複雑になるアナログデザインへの対応です。
近年のアナログデザインは、微小電流のセンシング技術が重要となるセンサや、フラッシュメモリ、MRAMなど、非常に高い精度を必要とする大規模デザインへの対応、また、MEMS、Photonicsなどの新しいアーキテクチャを使用したデザイン、5G設計を含む複雑なRFソリューション、Low Powerを含むミックスシグナルシミュレーションなどへの対応が求められます。
図1:今日のアナログシミュレータが直面する課題
アドバンスドノード・ポストレイアウト検証
アドバンスドノードの設計では数百万ものトランジスタと数十億個の寄生素子が含まれ、チップ全体の寄生RCの増大がシミュレーションのパフォーマンスに多大な影響を与えます。
イメージセンサ
イメージセンサは、人間の目が見ることができるよりも広いダイナミックレンジを持つ必要があります。これは、ピクセル間のばらつきに対する許容範囲が狭くなることを意味します。
SerDesチップ
多くのクロックサイクルにわたるジッタ、タイミング変動をシミュレートするためにSPICE精度が必要です。
5Gチップセット
RFICトランシーバはデジタル化が進んでおり、過渡解析がトップレベル検証のRFシミュレーションに取って代わりつつあります。MIMO設計では、複数の受信機/送信機が同時にアクティブになるため、干渉がないことを確認するためにテストする必要があります。
図2:シミュレーションが困難なデザインの例
ケイデンスの新しいシミュレーション・ソリューション
Spectre X Simulatorは、SerDesやCMOSイメージセンサのようなサブシステム、複雑なアナログ、RF、ミックスシグナル設計などの大規模なデザインのシミュレーション課題を解決する大規模分散並列処理回路シミュレータです。高精度を維持しながら、最大で約10倍の性能向上を提供します。Spectre X Simulatorにより、数百万のトランジスタや数十億の寄生素子を含むポストレイアウト検証における回路シミュレーションを効率的に行うことが可能になります。
図3:Spectre APS と、Spectre X Simulator の速度比較
Cadence Spectre X Simulatorの主な特長
Spectre の精度を継承
Spectre X Simulatorは、新しい数値解析手法を用いるにより、アナログ精度を損なうことなく、はるかに大きな回路方程式をよりインテリジェントに解くことができます。これにより、アナログ設計者が何年もの間、ゴールデンリファレンスとして信頼してきたSpectreと同等な高精度なシミュレーション精度を得ることができます。
容易なユースモデル
Spectreでは、3つのエラープリセットが提供されています:
- Liberal:パワーマネージメントおよびその他の精度要件を緩和可能なアナログアプリケーション用
- Moderate:ほとんどのアナログアプリケーション用
- Conservative:高精度なアナログアプリケーション用
これらのエラープリセットを使用することで、ユーザーは、細かいシミュレータ・オプションを調整することなく、必要な精度を調整することができます。 しかし、これまでに述べてきたとおり、以前に比べて設計者が実行する必要があるシミュレーションの種類は増加しています。Spectreが最初に開発されて以来、シミュレーション技術は進歩し、これら設計の多様化に対応するために、Specter X Simulatorには5つの新しいエラープリセット、cx、ax、mx、lx、およびvxが導入されました。これらのエラープリセットを使用することでSpecterと同等の精度を維持しながら、速度の大幅な向上とともにシミュレータをより細かく制御できます。
- vx:カスタムIC検証用
- lx:パワーマネージメントおよびその他の精度要件を緩和可能なアナログアプリケーション用
- mx:ほとんどのアナログアプリケーション用
- ax:高精度アナログアプリケーション用
- cx:ゴールデンリファレンスの精度が必要なアプリケーション用
スケーラブルで、大規模分散シミュレーション
Specter X Simulatorは、CPU使用率を自動的に調整して速度と容量の利点を最大化し、幅広いハードウェアで最大限の柔軟性を発揮します。また、シミュレーションをクラウドや、ホストを跨いで複数のCPUに分散することにより、マシン構成や物理的な場所に関係なく、これまでにない高速度と大容量を提供します。また、この技術を使用した速度、容量の改善は、アドバンスドノードのみならず、65/45/28nmなどのレガシーノードの設計に於いても得ることができます。
図4:分散処理による速度向上
容易に採用可能
業界標準であるSpectreの開発方針を継承し、Spectre X Simulatorは各ファウンドリによって認証済の既存のデバイスモデルをそのまま使用することができます。さらに、Spectre X Simulatorは、Cadence Virtuoso® ADE Product Suite, Virtuoso RF Solution, Legato™ Reliability Solution, and Liberate™ Characterization Suiteなどにおいて提供される既存のSpectre設計フローをサポートします。
ミックスシグナル検証対応
Spectre X SimulatorはCadence Xcelium™ Parallel Logic Simulatorと統合され、Spectre AMS Designerを活用したミックスシグナル検証に対応し、ミックスシグナル動作言語や実数モデルメソドロジを完全にサポートします。
まとめ
次世代のSPICEシミュレータである、Spectre X Simulatorは、精度を犠牲にすることなく、コンピュータファームの性能を最大限に活用するための大規模並列処理機能を備えた回路シミュレータです。
現在のアナログ設計者が直面する、以下のシミュレーションの課題に対処することができます:
- アドバンスドノードへの移行に伴うデザイン構造の複雑化
- 解析対象となるデバイスおよび寄生素子の指数関数的な増加
- 多様化するアナログ設計
加えて、Spectre Accelerated Parallel Simulatorと同様に、既存のSpectreのプラットフォームを元に開発されているため、設計者は特別な配慮を行うことなく容易に新技術を導入することができます。
参考:
新製品Spectre X Simulatorに関するさらに詳細な情報については、http://www.cadence.com/go/spectrex をご参照ください。
7月19日(金)開催、CDNLive Japan 2019のセッション、デモ・コーナーにおいて、Spectre X Simulatorをご紹介します。
フィールドエンジニアリング&サービス本部
ミックス シグナル インプリメンテーション
米田 裕子
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